木質バイオマスを用いたコジェネレーション技術

はじめに

スターリングエンジン(SEG)は,燃料の選択肢が多く,クリーンエネルギー機器の1つとしてコジェネレーション利用が検討されています。特にヨーロッパでは,家庭用の小形SEGの試作も行われています。SEGの燃料として廃棄物やバイオマスを利用すると,温室効果ガスの排出抑制と新たなエネルギー源の開拓が実現する可能性があります。しかしながら,一般にこれまでの試作SEGでは,内燃機関と比べて高い発電効率が得られていないこと,エネルギー容積密度が低いこと,制御応答特性が十分に知られていないことなどが課題でした。そこで本研究では,木質バイオマスを使ったSEGを試験して,エネルギーフローと動特性を調査しています。試験SEGは,一関工業高等専門学校の佐々木先生と星先生の研究グループが製品化を検討しているもので,性能試験では豊田高専の鬼頭先生に多大なご協力をしていただきました。

SEGの制御応答特性は,エンジン構造や燃焼室の形状,熱源の伝熱特性などに依存すると考えられます。一方,木質バイオマスの燃焼制御は難しく,燃焼室の特性はSEGの発電効率に大きな影響を与えます。そのためSEGの高効率運転を考えると,SEGを一定負荷のベースロード運転用に導入するほうが良いものと予想されます。

テストエンジン

下図は,試験SEGエンジンの全体図です。SEGには木材のチップ燃料(木質バイオマス)を供給します。チップ燃料を燃焼室のホッパーに投入すると,燃料は燃焼室に入る前に予熱空気と混合されます。チップ燃料の供給速度は,ホッパーの下部に設置した燃料供給装置で制御でき,SEGの動力軸から交流発電機にベルトで動力が伝達されます。SEGの排熱は,排気ガスとシリンダの過熱を防ぐための冷却水です。

下の図は,SEGコジェネレーションシステムのエネルギーフローです。排気ガスおよび冷却水の熱量は,温度センサと流量計を使ってそれぞれのエンタルピ輸送量を計算して知ることができます。


(一関工業高等専門学校 機械工学科 佐々木・星研究室)

性能試験の結果

実験により, 発電量と発電効率および排熱出力の関係を調査しました。その結果の例が下の図です。図中に示す排熱は,排ガスとエンジン冷却水の合計を表しています。今回の実験条件では,試験SEGの最大発電効率はおよそ13%でした(試験条件を変えることで,さらに向上することがわかっています!)。試験SEGの発電量と効率の関係はほぼ線形ですので,高い効率でSEGを運転するには,できるだけ最大出力点近傍で発電することが良いと考えられます。

本研究では,熱需要の多い札幌市の住宅にSEGを導入するときの運用を計画することにしました。調査する運用方法は,SEGを最大効率点でベースロード運転する場合と,SEGの運転にPI制御を加えて電力負荷に追従する場合です。下図の上は,SEGベースロード運転の解析に用いる札幌市の6戸の住宅での,各月代表日の電力需要モデルです。電力需要モデルは,主に電灯と家電での消費電力を表します。ただし実際の電力負荷パターンは,突入電流などの短時間で急激に変化する負荷の集まりとなります。

下図の下は,SEGのベースロード運転時の熱収支の解析結果です。図中に熱収支,蓄熱量,補助熱源(電動ヒートポンプなど)に要する熱量の各特性を示しています。図中の蓄熱量の結果は,排熱をすべて回収するときの特性で,熱需要の少ない夏季(6月,7月,8月)での蓄熱量が余ってしまいます。そこで夏季の余剰な熱を大気に放出すると考えると,SEGの排熱を有効に利用するための蓄熱容量は,図中に示すように150MJであると予想されます。

住宅1棟あたりの「年間電力購入量と木質バイオマスの年間消費量」の解析結果が,下の図です。SEGベースロード運転では,エネルギー供給する住宅数が少ないほど買電量は減り,消費するバイオマス量は増加します。SEGからエネルギーを供給する住宅数が変わっても,SEGでは一定負荷の運転を行っているので,木質バイオマスの消費量は同じです。一方,SEGの電力負荷追従運転では,住宅数が少ないほどエネルギー需要量は減り,買電量とバイオマス量も減少します。

下の図は,従来方法(商用電力と灯油ボイラ,または商用電力とヒートポンプ(COP=3))とSEGシステムのエネルギー供給コストを同じとしたときに要求される,木質バイオマスの単価の解析結果です。木質バイオマスの単価が図中に示した値を下回るときに,SEGシステムのエネルギーコストは従来方法よりも有利となります。

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