戸建て住宅用コジェネレーション

はじめに

国内におけるコジェネレーション(以下CGSと表記する)技術は,大規模なものから数百kW程度の中規模施設への普及が進みつつあり,近年では集合住宅や個別住宅に導入する小型システムの開発が行われています。北海道地方の個別住宅で消費される年間灯油量はおよそ2.1GLで,熱量に換算すると22TWh(一戸あたりの消費量が1932L/yearで108万戸で計算)にのぼり,その削減のためには寒冷地戸建て住宅の省エネルギー化が大切です。住宅の省エネルギー化は,建築技術の向上や未利用エネルギーの活用によって改善すると共に,CGSによる分散エネルギーの導入も有効であると考えられます。これまでに,寒冷地住宅での給湯や融雪には灯油ボイラの利用が多く見られ,さらに今後は集中暖房方式やオール電化住宅方式の普及がさらに進むものと予想されます。また,環境問題を改善する点で,水素を媒介としたエネルギー社会の実現が目指されています。最近では,固体高分子膜形燃料電池(PEM-FC)を用いた戸建て住宅用CGSの開発が進められています。PEM-FCの普及には,現在のところ固体高分子膜や触媒材料のコストおよびそれらの寿命が課題となっています。しかしながら,これらの課題がクリアされたなら,その普及は急激に伸びるものと考えられます。個別住宅や集合住宅の電力負荷は数百W~数kWの範囲であり,これまでに広く実績のあった産業用と比べて小容量の動力機関を要します。容量の小さな熱機関を,負荷変動が激しい一般の戸建て住宅や集合住宅に導入すると,効率の低い部分負荷運転が頻繁に生じることになります。したがって,戸建て住宅用CGSによるエネルギーコストが,従来の商用電力と比べて有利となるには,CGSの発電効率を改善するために様々な工夫を加える必要があります。

灯油エンジンCGS

本研究では,予測し難い負荷変動のある戸建て住宅や集合住宅などに小型CGSを導入する際に,負荷が小さいときには,エンジンの動作点を高効率側にシフトするように,発電した電力の一部をヒータで熱に変換して蓄熱します。さらに,このシステムではCGSのエネルギコストと商用電力のコストを比較して,安価な供給方法を選択することで住宅に電力を供給します。

下の写真は,試験用に試作した最大発電量5kWの灯油エンジンコジェネレーションです。製作費は材料代だけで25万円くらいです。灯油エンジン,電圧調整機能のついたAC100V,50Hzの同期交流発電機,灯油ボイラ(25kW),商用系統との高速切替器,蓄熱槽で構成されています。

下図は,試作した灯油ディーゼルエンジン発電機の回転数1600rpmでの,燃料消費量と電力および熱出力の結果です。破線は電力出力,実線はジャケット温水および排ガスの総熱出力を表します。1600rpmでの最大発電出力点は,燃料消費量0.9kg/hで2.9kWです。出力と発電効率の関係は非線形で,出力の小さな領域と大きな領域では発電効率が大きく異なります。したがって,電力負荷変動が大きな戸建て住宅に下図のCGSを導入して負荷に追従した運転を行うと,出力の小さな領域の運転が頻繁に出現します(部分負荷運転)。この結果,平均すると発電効率の低い発電システムになります。

下の図は,灯油燃料の単価を44yen/L,商用電力の単価(従量電灯料金,基本料金を含まず)を25.64yen/kWh として,CGSで消費する燃料の発熱量をパラメータとしたときの,電力および熱出力の関係である。この図のことを運転マップと呼んでいます。 下図の下部のエリアA(網掛け部分)はエンジン発電機単独でのエネルギー供給動作,エリアB(実線)はエンジン発電機にボイラでの補助加熱を加えた運転動作,そしてエリアC(破線)はエリアBに電気ヒータによる電力の熱変換を加えたときの運転動作を表します。

下に示す図は,札幌市の戸建て住宅の標準負荷パターンを用いて解析した,本システムのエネルギー供給コストと,従来のユーティリティ(商用電力とボイラ)によるコストと比較した結果です。蓄熱槽を有さず電力の熱変換(余剰電力をヒータで熱に変えて蓄熱する)を行わないシステム(タイプR1),電力の熱変換を行うが蓄熱槽を有さないシステム(タイプR2)および電力の熱変換を行い蓄熱槽を有するシステム(タイプR3)について解析しました。ユーティリティによるエネルギコストを基準(=1.0)にしたときの,年間を通した削減率の合計は,タイプR1で25%,R2で27%,そしてR3では31%となります。維持費などをさらに考えなくてはなりませんが,ユーティリティと比べて競争できる可能性があります。

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