葉の光合成と最適形態のシミュレーション

はじめに

植物の葉の主な機能は,光合成と呼吸であると考えられます。また,光合成による光化学反応では水を水素と酸素に分解し,生成した水素は,植物を構成する有機物の原料となります。このため,多くの植物の葉の配置は,光合成速度を最大化するように進化していると予想されます。植物は高さを増すことで他の個体よりも有利に日光を得ることができますが,植物の資源(バイオマス)は限られており,葉,茎や幹,根などに有効に配分する必要があります。この配分割合は,子孫を残すための戦略,採光のライバルの存在,植物が倒壊しないための力学的な強度などから設計されていると考えられます。バイオマスは光合成で生産されるので,採光量を増す葉の形態進化は,植物の生き残りに多大な影響を与えます。そこで,植物の葉の最適配置を調査する解析アルゴリズムを開発しています。

シミュレーションソフト

開発中のシミュレーションプログラムでは,モンテカルロ法を用いて太陽光を模擬しています。また,葉の配置の最適化については遺伝的アルゴリズムを用いて調査します。最適化解析に与える目的関数は,葉に到達する光子の総数(光量子束密度)が最大である場合と,全ての葉の光合成速度の平均値が最大である場合としました。

葉同士の重なりによる日光の遮りは,葉の形状,傾き,葉枝の長さと面積で異なります。例えば,イチョウやカクレミノでは葉枝の長さが個々の葉で大きく異なり,葉の重なりによる日光の遮りを避けていると考えられます。一方,ハナミズキの葉枝の長さは短く,突出して長い葉枝はありません。葉の形が特徴的であることから,本研究ではハナミズキとイチョウの葉モデルを用いることとしました。開発したアルゴリズムに,下に示すようなハナミズキとイチョウの葉のモデル(四角形の面要素で構成)を与えて最適配置を調査しています。

本研究では,複雑形状を持つ葉の採光量をモンテカルロ法を使って調査します。葉の採光量と光合成速度は,非線形の関係であることが知られています。また,葉の採光量は,光源の位置と葉の方位角,仰角,ねじれ角,葉枝の長さで変わります。そこで遺伝的アルゴリズム(GA)の出番です。GAは,これまでにも多くの非線形多変数問題に導入されてきました。本研究では葉の方位角,仰角,ねじれ角,葉枝の長さを変数とし,GAで用いる染色体コードで表すこととしました。

葉の位置は,下の図に示すように方位角 ,仰角 ,回転角 ,葉枝の代表長さで表すこととしました。葉の端部は葉枝と接続しており,葉枝と葉の中心線は直角と決めています。さらに,植物の葉の光合成能力は,光環境の条件に依存することが知られています。そこで,葉モデルの面要素ごとに葉緑体酵素の割合を与えられるようにしています。

葉同士の重なりによる光子の遮りを,さらに下に示す遮りチェック方法を使って調査します。このモデルでは,太陽光の仮想ふく射面から放射された光子が葉2の面要素 に到達する前に,葉1の面要素 を通過します。このときに光子を遮る葉1の有無は,ふく射面から見て,葉1の面要素の全ての辺(ベクトル)の右側にあることを示せば良いこととなります。

以下に,解析結果の例を示します。解析の結果から,葉の最適な配置は葉の形に強い影響を受けることがわかりました。また,光量子束量の最大化目的の場合と,光合成速度の最大化目的の場合の葉の最適配置は,明らかに異なることが明らかとなりました。

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