木質バイオマスエンジン(スターリングサイクル)の基本特性

はじめに

廃棄物やバイオマスを燃料とするスターリングエンジン(SEG)は,温室効果ガスの排出が少ないエネルギーシステムです。しかしながら,ガソリンエンジンやガスエンジン,ディーゼルエンジンを使った発電機と比べて発電効率の改善と量産品の出現が求められています。本研究では,試験SEGを評価して,負荷の大きさとエネルギーフローの関係を調査しました。この結果を,熱需要の多い寒冷地集合住宅(札幌市の10世帯住宅)のエネルギー需要パターンに導入して,燃料消費量,発電効率,温室効果ガス排出量を解析しました。想定したシステムは,SEGをベースロード運転する場合と,電力負荷に追従する場合です。また,SEGの排熱が熱需要量よりも少ない場合は,電動ヒートポンプを運転するシステムの電力消費特性についても調査しました。解析の結果から,従来のエネルギー供給法とSEGを導入する方法のエネルギーコスト,炭酸ガス排出特性,補助熱源および蓄熱槽の運用計画を明らかにしました。これらの結果からでは,SEGを住宅に導入する場合,電力負荷に追従するSEGコジェネレーションの導入が有利であると考えられます。ただし今後の課題として,試験SEGの負荷応答特性を改善する必要があります。  

研究の概要

スターリングエンジン(SEG)は燃料の選択肢が多く,クリーンエネルギー機器の1つとしてコジェネレーション利用が検討されています。廃棄物やバイオマスをSEGの燃料として利用すると,温室効果ガスの排出抑制と新たなエネルギー源の開拓が実現します。しかしながら,一般にこれまでの試作SEGでは,内燃機関と比べて高い発電効率が得られていないこと,エネルギー容積密度が低いこと,制御応答特性が十分に知られていないことなどが課題でした。本研究では,先ず木質バイオマスを使ったSEGを試験して,エネルギーフローと動特性を調査しました。一般に,住宅や集合住宅の電力需要パターンは,短時間で変化する多くのピークで構成されています。このような電力負荷にSEGを追従させる場合,システムには早い制御応答特性が要求されます。SEGの制御応答特性は,エンジン構造や燃焼室の形状,熱源の伝熱特性などに依存することがわかっています。したがって,燃焼室形状の最適化を含む,燃焼ガスとSEGの伝熱方法の研究が過去にも調査されています。しかしながらチップの燃焼制御は難しく,このため燃焼室の設計はSEGの発電効率に強い影響を与えます。そこで,高効率運転を考えると,SEGは一定負荷のベースロードに導入することが考えられる。さらに本研究では,SEGの試験結果を,熱需要の多い寒冷地集合住宅のエネルギー需要パターンに導入する場合の燃料消費量,発電効率,温室効果ガス排出量を調査しました。北海道のような寒冷地では,SEGの排熱だけでは熱需要を満たさない期間があります。そこで本研究では,電動ヒートポンプと蓄熱槽の導入を計画し,これらの容量と運用方法について調査を実施しました。

表1と表2は,それぞれ本研究で試験したSEGと発電機の仕様です。本試験では,最大発電量は1.6kWで試験しました。下図は,試験装置の全体図です。SEGには木材のチップ燃料を供給します。チップ燃料を燃焼室のホッパーに投入すると,燃料は燃焼室に入る前に予熱空気と混合されます。

エネルギー収支の結果

図4に,SEGの運転試験の結果例を示します。図4(a)はバイオマスの投入熱量と,SEGの発電量,排ガスおよびエンジン冷却水熱量,補機損失(伝達ベルトと発電機)の実験結果です。

運用計画

SEGの出力特性を用いて,図9(a)中に示すベースロード運転を計画しました。SEGの電力出力は1.6kW一定であるので,排熱出力は図9(b)中に示すように8.8kW一定になります。システムの排熱出力が熱需要を上回るときには余剰熱を蓄熱槽に蓄えます。一方,排熱が熱需要を下回るときには,蓄熱槽から熱を供給します。それでも熱が不足する場合は,電動ヒートポンプを運転して供給します。

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