バイオエタノールを用いたソーラー改質装置の開発

はじめに

最近,植物や廃材などのバイオエネルギーの活用が注目されています。バイオエネルギーは,カーボンフリーの考え方から温室効果ガスの排出量が大変少ないエネルギーです。バイオエネルギーの利用形態は,固形物を直接燃焼する方法,ガス化または液化して利用する方法などがあります。本研究では,バイオエタノールを水素に改質して燃料電池に供給するシステムについて検討しています。エタノールの水蒸気改質では,アルミナ担体にロジウム金属を担持した触媒層を400℃以上に維持して,エタノール蒸気と水蒸気を供給することで水素リッチな改質ガスを得ることができます。水蒸気改質反応とエタノールおよび水の気化には熱供給を要しますが,本研究では,これらの熱源として太陽光を利用します。ただし,エタノール水溶液を早い速度で気化するには,100℃以上の温度を要し,また,水蒸気改質反応には400℃以上の温度を要します。そこで,太陽光を放物回転面鏡により集光して,その焦点近傍に気化部と改質部を設置する反応器を設計しています。

これまでの調査

下に示すような複数の住宅間で電力のやり取りができるマイクログリッドに,太陽エネルギーを利用した,バイオエタノール水蒸気改質を伴うPEM(固体高分子膜形)燃料電池を導入するといった,分散エネルギーシステムの基本性能について調査してきました。これまでの調査では,このシステムを札幌,東京,大阪,鹿児島の気象条件の下で運用することを想定して,水素生成量,温室効果ガス排出量,売電および買電量を数値解析により見積もっています。これらの検討結果を,次の段階で実施する実証試験の目標値としています。

システム構成

下の図は,本研究で開発中のバイオエタノール・ソーラー改質装置(SRF)のシステム構成です。SRFでは太陽追尾機構を有する放物面回転鏡(集光集熱器)を2つ用います。集光集熱器(1))および集光集熱器(2)で集めた高エネルギー密度の太陽光は,それぞれ,バイオエタノール燃料を蒸発させる気化部の熱源と,この燃料蒸気を水素リッチなガスに改質する改質部の熱源として利用されます。改質ガス中には,PEM燃料電池の電極を被毒する一酸化炭素が含まれます。これを数十ppmまで低減するように,改質部から出た改質ガスを,シフト反応器とCO酸化器に供給します。また,改質ガスには多くの水蒸気が含まれているので,改質ガスを圧縮貯蔵する場合にはドライヤにより水分を除く必要があります。燃料電池に改質ガスを供給して発電し,DC-DCコンバータとインバータで規定の電圧および周波数に変換し,この電力を,系統連系器を介してマイクログリッドに供給します。ただし,マイクログリッドは商用電力系統と系統連系してあり,買電と売電ができるものとしています。燃料電池排熱などの排熱は,蓄熱槽に貯蔵して時間シフトして需要側に供給することができます。

下左の図は集光集熱器モデルで,焦点を含む部分に反応器を設置しています。各集光集熱器の焦点は,下右図に示すように安全のため深さより短い位置に設定しています。太陽光を利用するエネルギーシステムでは,天候による日射の変動が問題となりますが,集光面積を大きくすることで日射の回収量は増します。ただし,集光面積を大きくすると装置が大きくなり,戸建て住宅への設置が困難となります。

燃料電池の発電端で1kWの出力を得るには,気化部でのエタノール燃料の顕熱と潜熱におよそ240W,改質部の触媒反応に150Wの熱を要します。本研究では集光集熱器(1)と集光集熱器(2)の直径 をそれぞれ1mとしています。この場合,集光器の設計集光量を600 W/m2とすると,それぞれおよそ470Wの熱を得ることができます。

効果の予測

下図は,SRFで生成する水素量の解析結果で,横軸は各月代表日(15日)の各時刻です。ただし,日射量は過去10年間(1990年~1999年)の気象官署で計測した日射データを使用し,各月代表日の各時刻での太陽位置(高度と方位)は,国立天文台のデータベースを利用したものです。水素生成量は,日射時間と日射強度に依存します。各月代表日の日射量を1年分加えた日射量は,札幌が51kW/m2,東京が48kW/m2,大阪が48kW/m2,鹿児島が68kW/m2です。この中では鹿児島に設置するSRFの水素生成量が最も多いのですが,東京の6月および7月代表日の水素生成量が少ない理由は,雨天や梅雨による日照時間の短縮化の影響を受けているからです。東京に対する札幌,大阪,鹿児島の水素生成量は,107%,101%,142%となります。東京にSRFを設置する場合は7月の冷房負荷に対応する水素生成量が少ないので,代表日を使った解析では他の都市と比べて不利になると考えられます。

下図の上左図は,各月代表日の電力収支の解析結果です。図中の電力収支が正の場合は,SRFを設置した住宅での電力需要量に比べて発電量が多く,余剰量を売電することができます。一方,電力収支が負の場合は,SRFで発電した電力が需要量に比べて少なく,不足分を買電して賄う必要があります。鹿児島にSRFを設置すると,電力収支が正の月が多く,大阪では5月および8月から12月で電力収支は正となります。

下図の上右図は,各地の年間の買電量と売電量の解析結果です。札幌と東京では年間を通すと買電が必要で,大阪と鹿児島では売電することができます。特に,SRFを鹿児島の気象条件の下で運転すると,十分な日射量が得られることから,水素生成量が多く売電量が大きいものと予想されます。

下図の下左図は,各月代表日での発電に関するエタノール消費量の解析結果です。ただし図中には,熱需要が排熱を上回るときに要するボイラ運転でのエタノール燃料は含まれていません。SRFでは,日射量に応じてエタノールを水蒸気改質して水素を製造します。したがってエタノール消費量は,日射条件と電力需要量に依存します。

下図の下右図は,各地の戸建て住宅の年間電力需要量に占める,SRFでの発電量の割合を計算した結果です。大阪と鹿児島の日射条件では,SRFで生成した水素によるPEM燃料電池の発電で,年間の電力を賄うことができると考えられます。ただしこの場合には,生成した水素の貯蔵と時間シフトによる利用,もしくは売電を要します。

下左図は,各地でのエタノール年間消費量の解析結果です。発電時のエタノール消費量に関しては,夏期の冷房負荷が大きい鹿児島で最も多くなります。一方,ボイラでのエタノール消費量は,熱需要の多い札幌で最も多くなります。このことから,札幌でのエタノール年間消費量は,他都市と比べて格段に多いものと計算されます。右下図は,商用電力の買電と売電を含めた,SRFでの年間の二酸化炭素排出量の解析結果です。ただし,買電の温室効果ガス排出係数は,0.378kgCO2/kWhで計算しています。札幌および東京に設置したシステムでは,買電による温室効果ガスの排出があるものの,大阪および鹿児島では計算上排出がないこととなります。

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