マイクログリッド技術

燃料電池マイクログリッド

市街地の建築物に小型発電機を分散配置して,各発電機と建築物を電力ネットワークで結ぶマイクログリッドは,温室効果ガス排出量の削減や省エネルギーを実現するエネルギーシステムとして期待されています(例えば,Robert, H. et al., 「Microgrid: A Conceptual Solution」, Proceedings of the 35th Annual IEEE Power Electronics Specialists Conference,Vol. 6(2004), pp. 4285-4290., Carlos, A. and Hernandez, A., 「Fuel Consumption Minimization of a Microgrid」, IEEE Transactions on Industry Applications, Vol. 41, No.3 (2005), pp. 673-681.)。特に燃料電池を使ったマイクログリッドは,将来のエネルギー供給方法の有力手段であると考えられます。マイクログリッドの構成には,下図の上に示すように,商用電力などの他の電力ネットワークと連系して運用する方式と,下図の下に示すような,他のネットワークとは連系しない自立した方式が考えられます(以下ではそれぞれ,「連系グリッド方式」と「自立グリッド方式」と述べる)。

現在国内で多く見られる,大規模な発電所の電力を使用する方法と比べると,このようなマイクログリッド技術を導入することで, ①非常時のバックアップエネルギー供給施設,②既存の大型発電所のピークカット, ③温室効果ガス排出量及びエネルギーコストの低減,④導入する地域の事情を考慮したエネルギー設備が構築できるのでエネルギー損失が少ない,などの効果が期待されています。

マイクログリッド技術を導入して温室効果ガスを削減するには,グリッドに接続した各機器の発電効率を高く維持する必要があります。多くのエネルギー装置の発電効率は負荷率(負荷/エネルギー装置の容量)に依存しますので,複数のエネルギー装置を接続するマイクログリッドでは,各装置で分担する負荷配分の制御と,分散配置する装置容量の最適化が必要となります。さらに,マイクログリッドは分散電源の1つであるので,排熱の有効利用の達成が,システム全体の効率に大きく影響します。

このような背景の下で,本研究室では,電力グリッドのほかに熱供給ネットワークおよび燃料供給ネットワークを含めたマイクログリッド技術を調査しています。これまでに,(a)燃料電池の協調運転による発電効率の改善方法に関する調査(例えば,Shin'ya OBARA,「Equipment Arrangement Planning of a Fuel Cell Energy Network Optimized for Cost Minimization」, Renewable Energy, Vol. 32, Issue 3, 2006, (pp.382-406), Elsevier Ltd.),(b)水電解槽を用いた電力負荷のピークカットに関する研究(例えばShin'ya OBARA,「Load Leveling of Fuel Cell System by Oxygen Concentration Control of Cathode Gas」, Transactions of the ASME, Journal of Fuel Cell Science and Technology, (in press)),(c)排熱輸送配管での放熱量の見積もりと最適経路計画に関する提案(Shin'ya OBARA,「Effective-Use Method of Exhaust Heat for Distributed Fuel Cells」, International Journal of Hydrogen Energy, Vol. 31, 2006, pp.981-993, Elsevier Ltd.など)などを実施し,主に数値解析による調査を進めてきました。

住宅や集合住宅,小規模店舗などに燃料電池を分散配置して電力および熱を賄う場合の課題として,設備コストが高価であることと,部分負荷運転時及び熱電比のミスマッチによる効率低下があげられます。そこで本研究室ではこれまでに,数棟から数十棟の建築物の電力及び熱需要を,任意の1箇所に設けた燃料電池とその補機で供給して賄う「集中式燃料電池マイクログリッド」と,燃料電池を各棟に分散配置して賄う「分散式燃料電池マイクログリッド」について調査してきました。下図は,「分散式燃料電池マイクログリッド」に接続する建築物の設備モデルの例です。燃料電池マイクログリッドの協調運転に関する調査をシミュレーションしたところ,機器集約化により設備コストが削減すること,及び従来方法と比べて温室効果ガス排出量が削減することが明らかとなっています(例えば,Shin'ya OBARA,「Effective Improvement in Generation Efficiency due to Partition Cooperation Management of a Fuel Cell Micro-Grid」, Journal of Thermal Science and Technology, Vol. 1, No. 2, (pp.42-53).など)。そこでこの技術をさらに進めて,燃料電池マイクログリッドに自然エネルギーや未利用エネルギーなどの再生可能エネルギーを接続する際のグリッドの安定性,即ち動特性を数値解析で調査しています(例えば,Shin'ya OBARA,「Power Dynamic Characteristics of a Fuel Cell Micro-Grid Connected a Small-Scale Wind Power Generator」, International Journal of Hydrogen Energy, Elsevier Ltd. (Accept, in press)など)。

本研究室では,ソーラー発電装置をマイクログリッドに接続するモデルも調査しています。現在,再生可能エネルギーを模擬した機器を試験用燃料電池マイクログリッドに接続して,グリッドの動特性および安定条件を調査する準備を進めています。本研究の目的が達成されると,より現実的で高精度の燃料電池マイクログリッドの設計が可能となります。特に,再生可能エネルギーを併用する燃料電池マイクログリッドについて,電力および熱の応答特性が知れるので,上で述べた「連系グリッド方式」と「自立グリッド方式」の制約条件と運用計画を提案することができます。

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