固体高分子膜形燃料電池の運用計画

エネルギー自立住宅

住宅や集合住宅に導入する小型分散型電源の有力候補として,天然ガス改質型の燃料電池コジェネレーションが検討されています。しかしながらこの方式では,ガス配管のインフラ整備を要することや,改質温度が約700℃と高く,改質器の耐久性と熱損失の点に課題があります。そこで本研究では,メタノール液体燃料による水蒸気改質型(改質温度は250~300℃)の燃料電池コジェネレーションを用いるエネルギー自立住宅について検討してみました。メタノール燃料を用いると,都市ガス配管が未整備である地方都市や僻地の住宅でも,すでに普及している灯油ホームタンクを使って分散電源を普及させることができます。この方式では,送電線やパイプラインなどのインフラ整備を必要としません。しかしながら,エネルギー自立住宅を達成するには,燃料電池コジェネレーションのほかに補助電源,蓄電・蓄熱装置,補助熱源などの補機を要することになります。このため,設備コストが上昇します。こうした背景はありますが,住宅のエネルギー需要を自立して賄うためのシステム例を検討し,運転コストの最小化を目的としたときの運転パターンを明らかにしました。

システム構成

下に,メタノール水蒸気改質型燃料電池を用いたエネルギー自立住宅のシステム構成図を示します。メタノールタンク(3)に充填したメタノール燃料を,改質器(2)に供給して水素リッチな改質ガスを生成します。この改質ガスを燃料電池(1)に供給することで発電します。燃料電池を電力需要に追従して運転する際に出力する排熱は,蓄熱槽(10)に蓄熱されます。寒冷地では暖房負荷が大変大きいので,さらに土壌熱源ヒートポンプ(11)を導入して不足分の熱を供給します。このシステムでは,さらに太陽光発電(4)と水電解槽(5)も設けてあり,太陽光を用いた水素・酸素燃料の生成も可能です。

このような複雑なシステムを想定したのは,最適化計算で複数の運転パターンを選択できるようにするためです。つまり,システムは複数のエネルギー供給経路を持っており,コンピュータに最適な運転パターンを選択してもらうのです。

遺伝的アルゴリズム

解析には,遺伝的アルゴリズム(SGA)を用いました。下図は,SGAに導入する染色体モデルで,図中に示すように,染色体モデル中の遺伝子をグループ分けして,各サンプリング時刻での 電力出力量 ,熱出力量 ,電力及び熱貯蔵量,そして機器の選択スイッチ を加えた情報を,0,1で記す遺伝子モデルで表現します。このうちの選択スイッチ については,例えば異なる複数の機器で同時のエネルギ供給を行わない場合に,どの機器からエネルギ供給を行うのかを選択するために用います。 このようにして決定した染色体モデルは,システムの運転動作を表します。SGAの解析では多くの染色体モデルの中からシステムの目的に適する個体を選択し,この染色体モデルを増殖させて,遺伝子操作を加えることで多様性を維持しながら,さらに目的に適する個体を探します。こうして得た染色体モデルの中で,最も目的を満たす個体を最適解と決めます。この染色体モデル中の遺伝子を解読することで,運転計画が決まります。

電力フローと結果の例

下図に,エネルギーの供給経路を示します。燃料電池で発電した電力は,①DC/ACコンバータ(8)を介して需要側に供給する,②電気分解槽(5)に供給して水素・酸素ガスを生成して,これらを水素タンク(6)と酸素タンク(7)に貯蔵する,③蓄熱槽(10)内に設置したヒータ(9)に供給して熱に変換する,のいずれかの経路をたどります。また,水素および酸素タンクに貯蔵したガスは,任意時間に燃料電池へ供給して発電することが可能で,ヒートポンプの運転に要する電力は,相当量を燃料電池で発電して供給します。 ソーラーモジュール(4)で発電した電力についても,上で述べた①~③の供給方法の選択が可能です。ただし需要側への電力供給については,①メタノール燃料を改質器に送って改質ガスを得て,これを燃料電池に供給して得る電力,②ソーラーモジュールで得る電力,③タンク内の水素・酸素ガスを燃料電池に送って得る電力,のいずれか1つの系統で供給することとしています。蓄熱槽に蓄熱する熱は,①燃料電池と改質装置の排熱,②燃料電池およびソーラーモジュールで発電した電力を熱に変換したもの,③土壌熱源ヒートポンプ(11)で生成した熱,の3系統です。蓄熱の総量が蓄熱容量を超えるときには,相当分を大気に放出することとし,蓄熱槽からの出熱は,市水を蓄熱槽内部の熱媒体と熱交換して温水とし,これを需要側に供給することで実施します。

下図左は,ソーラーモジュールの出力割合を100%として,札幌市の各月代表日での,戸建て住宅のエネルギー需要パターンを用いて計算した,蓄熱量及び蓄電量の運用計画の結果です。この図から,蓄熱量の最大値は308MJ(2月)であり,蓄電量の最大値は23MJ(7月)であることが知れます。例えば水を熱媒体として蓄熱する場合は,蓄熱媒体と大気との温度差を60℃程度に設定すると,およそ1.2m3の容量を要することとなります。また,水素および酸素の貯蔵には,1気圧でそれぞれおよそ2m3と1m3であると予想されます。

下図右は,ソーラーモジュールの出力割合を変数として運用計画を行った際の,2月と7月でのシステム運転コストの結果です。晴天時(発電量100%)のシステム運転コストに対して,発電が全く行われない降雪時での運転コストの比は,2月代表日では1.12倍,7月代表日では1.71倍となります。したがって夏季での本エネルギシステムの運転は,天候により運転コストは大きく変動することがわかります。

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